5才のある日。
空のペットボトルを使って、
あれこれと工作していた
息子が突然こう言いだした。
「ペットボトルのー
底の部分だけを残して、
ハサミで切るとねー、
ほら、コップになるでしょ!」
そんなことを言いながら、
空のペットボトルを引っ張り出し
コップを作り始めた。
熱中して作り続け、気がつくと
彼の机の上にひとつまたひとつと
コップが増えていった。
そして、完成したコップたちを見て
息子はこう言い出した。
「僕、コップ屋さんになる!
このコップ120円で売る!」
(ほーほー、なんだか
面白い展開になってきたぞ)
親としては、しめしめといった感じだ。
「売るなら、コップのことを
みんなに教えてあげなきゃね」
私はそんな軽いアドバイスを
息子に伝えた。
ー
すると、息子なりに考えたらしく・・
コップのCMを撮ると言い出した、
私は彼のカメラマンとなった。
「これはコップです。飲み物が飲めます。
口の部分は、ハサミで切ったので
少しガタガタです。
お気をつけくださいね。」
そう言って、即興でジャパネット
高田社長をやってのけた。
その場でさくっと映像の出来を確認し、
広島のおじいちゃんとおばあちゃんに
LINEで動画を送った。
(数分後・・)
「2個、買いまーす!!」
すぐさま返信があった。
かわいい孫のオファーだもの、
あたりまえだ。
気を良くした息子は、みーちゃん
(私の妹、息子にとってのおば)にも
同じものを送りつけ、その日だけで
5個の成約をとった。
―
そんな形で、息子のコップ熱は
あっという間にエスカレート、
さらにコップを作り続けた。
数日後・・
私が食事の支度をしていると
自宅2階のベランダで息子が
何やら通りの人に叫んでる。
「こんにちはーー!
い、いりませんかー?」
(ん?嫌な予感・・)
「こ、コップいりませんかーー?」
これには、
私もさすがに驚いた!
息子は、見ず知らずの人に
自分が作ったコップを買ってもらおうと、
ベランダからセールスしてるだった。
「あれ~、おかしいなぁ~?
なんで、売れないのかなぁ~?」
息子にとっては、
売れないことがむしろ不思議なようだ。
私は、むしろ息子のその度胸のほうが
不思議でたまらなったが、、
さらに、息子は懲りることなく
「町の人に、もっと知って
もらいたいんだよね、コップのこと」
そう言って、画用紙で作った看板を
自宅玄関に飾ってしまった。
ー
息子はこうやって私に
いつも刺激をくれる。
今回の息子の姿は、
ビジネスや商いって
本来すごく純粋なものだと、
私に教えてくれた。
「いいものをいいって伝えたい」
「誰かにもっと喜んでもらいたい」
そんな思いが商いの源泉なのだと、
シンプルに私に伝えてくれた。
小さな小さなコップ屋さん、
その様は本当に可愛くてたまらないのだ。
―
おまけの後日談・・
ふたりで電車に乗ったとき、息子は
私の手を引っ張ってこう聞いた。
「あのさー、あの広告どうやって
出すのーー!?」
(ん・・?)
「ぼくのコップ、あそこに
のせたいんだけどーーー!」
そう指をさしたその先には・・
安く見積もっても広告費数十万は
するだろう、「吊り広告」があった。
親が教えたこと以上のことを軽々超えてくる。
おぬし・・、なかなかの商人やな・・
ーー
ヒモ解き職人 鈴木深雪